・木曽桧と漆
・身の回りからの素材調達
|
松本の平らは四方を山で囲まれ、ちょっと山に入ればいくらでも木がある、全国でも有数の松の産地です。 植林をしなくとも、放っていても松に覆われてしまうくらい、松が生息しやすい土壌をもっています。植林を した松はグニャグニャ曲がって使い物になりませんが、天然に育った松は案外真っ直ぐと立って、建築物にも 使えます。三郷にある県の材木市場は、日本ではおそらく一番の松の市場でしょう。そのくらい、前を見ても 、後ろを見ても、木材には事欠かない土地です。
しかし国産材は低迷の傾向にあります。なぜその国産材を使わないのでしょうか。材木には戦後まもなくか ら、「一面無地」「二面無地」「上小節」「特一」といった等級が、商人によって勝手に付けらた経緯があり ます。これは大手商社などが扱いやすいように、選別しやすいようにです。節がある、ないによって、構造上 問題があるわけではありません。問題があるとしたら、見た目に節が多いと、人から「これは安いな」と言わ れることくらいでしょうか…。
何年も経って自然に黒くなれば、無地であろうが節であろうが、それは一つの景色となるし、場所によって は節のあるものの方がいい場合もあります。たとえば濡れ縁をつくるとき、節のある材料とない材料があった とします。何もないところに川が流れていれば単調ですが、その中に二つ三つ石があれば、自然に流れは石に 当たり波が起こります。それによって「景色」が生まれます。それと同じように、節は「景色」になります。 そのような美しさも、必ずあるはずです。
かつての家づくりは、近辺から材を調達してい ました。私が見た100年以上前の古い家では、取 り壊したときに、屋根束に庭木の梅の木を使って いました。昔の家は火災にあっても、黒こげにな っている表面を手斧ではつって細い柱に使ったり 、根太に入れたり、束に使ったり、大事にしたも のです。今は断熱材、コンクリート、金網などが ついて、「始末が悪いからそのまま燃やしてしまえ」といった具合で、廃棄処分せざるを得ません。その中に 塩化ビニール系のものや、石油系のものがあればダイオキシンなどの有毒ガスが発生します。
長野県では戦後まもなくカラマツの植林を奨励しました。クヌギやナラやクリがたくさんあった山や雑木林 を全部切り倒し、カラマツに植え替えてしまいました。カラマツの足場丸太など、戦後復興の建設ラッシュで 高値で売れたから、当時はそれで良かったかもしれません。
カラマツそのものはねじれも多いし、脂もでます。大変扱いづらいですが、70,80年生くらいになると、悪 くない材料です。赤みを帯びた景色のいい、また若々しい感覚のある材料になります。強度的に問題のある材 料でもありません。
県では今、補助をどんどん入れて、躍起になってカラマツの間伐材を大断面の集成材につくっています。そ れをつくるには、サイコロをたくさんつくって、工業的な接着剤で貼り合わせ、それを成型して10メートル 15メートルの大断面にします。これは確かにドームなど大きな建造物に使うには合理的かもしれませんが、住 宅にはちょっと疑問です。むしろねじれて割れていても、その割れたもの一本でつくった方がいい。要はコス トがかからずに、割れないようにするにはどうしたらいいか、考えればいいのです。
今若い人で、二間続きで大きなケヤキの柱を建てたい、と望んでいる人はいないでしょう。かといって、パ ステルカラーのメーカーハウスも必要ありません。若い家族4人が生活していくためには、せいぜい25坪から 30坪くらいあれば十分間に合います。ましてや余計な間仕切りやメーカーの既製品が少なければ、価格も抑え られる。そういう一つの柱を立てて開発していけば、長野県内にカラマツとアカマツだけで何千棟、何万棟つ くっても足りるくらいの材料はあります。それをうまく使い分けていけば、空気の通う家ができるのではない でしょうか。
|
Copyright(C)KISO-ARTECH.All rights reserved.