・木曽桧と漆
・山と水の循環 |
木が繁るということは、水があるということです。田んぼに水が入り、野菜、果物が太陽に当たり、養分が 大地へ流れ、生物全体が生きることができます。最近、山林が環境問題から多少見直されてきたようですが、 国産材を使い、家を建てるということは、山の手入れ、つまり下草を刈り、枝を打ち、山の地が呼吸できるよ う手助けをしなければなりません。
木曽桧が、あれだけきれいなピンク色で、色が単一なのは、木が育つ土がある わけです。その中に流れている水はまたきれいなものです。水はやがて下に浸み 、またその中から野菜や果物ができ、われわれが飲んだり食べたりするものが生 まれるわけです。木は水を集める、そういう要素から言っても、生活を潤いある ものにする、なくてはならないものだと思います。
その山が今、ずいぶんと手つかずのままになっています。「山のようなものは 何とかなる。身体もえらいし、下草刈りに行って蛇にでもかまれたら大変だ」な どと言って、山に行く人はほとんどいません。世話をしなければ、山は密林みた いになって、空気も、陽も射しません。やがて共倒れしたり、ちっとも大きくな らずに、栄養のない、モヤシみたいな山になってしまう。したがって間伐をして空気を入れ、光を入れてやる ことが必要です。
私の村で、村有林を、伐採の時期であれば、村に住んでいる人であればタダで家一軒分くらい伐って建たせ 、その代わりに家族で山の下刈りを年に1、2回やらせる、そういうような仕組みを村で作ってみたらどうか と話をしてみたことがあるのですが、なかなかうまくいきませんでした。そういうことはこれからしていかな いといけない時代に入っています。やる価値があることだと思っています。子どもを山に遠足などで連れてい くと、「ああいいな、あけびがなっている」「キノコがあった」と、純粋に子どもは大きな歓声を上げます。 そこで、この次に来るときにも、このキノコがたくさん生えるよ うに、またあけびがたくさんできるように、木がすくすくと育っ て、子どもたちが育ったときにこの木で家が建てられるようにと 、学校教育の一環として、教えなければいけない。というより、 ずっと前にしていなければいけなかった。
木はざらに300年くらいは生きます。長いものは、杉のように 何千年も生きます。クスノキやイチョウなども何千年も生きます。トチも、あんなぼけたような木が、800年 や1000年近く経った木が今でも現存してあちこちにあります。そんな木が倒されても、使い勝手を間違わずに 、いい家をつくり、いい家具をつくれば、また私たちの生活の中で木は生きていきます。
木を扱う者として、今述べたようなことを大事にしていかなければいけないのではないか、と思います。
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